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産金学官士連携ポータルサイト:コミュニケーション「場」(C-ba)の展開
-都市型ものづくり中小企業のヨコ展開の『場』-
向井 規浩
1.はじめに
筆者は、2004年に産学連携活動に金融機関が本格的に参画した地方国立大学と信用金庫が主体となって組成されたコラボ産学官に、12年から4年間在籍した。その間に中小企業との産学連携活動における問題点と課題を把握し、分析をした上で、特に、東京都23区内のものづくり中小企業の若手経営者を対象とした産金学官士連携活動のあり方を立案し、具現化するために同組織から独立し、16年6月に㈱ユピアを設立した。同年10月に産金学官士連携ポータルサイト『コミュニケーション「場」』Ⓡをオープンし、自ら運営している。
東京都23区内ものづくり中小企業を中心とした産金学官士連携活動の推進に際し、メインプレイヤーである二代目・三代目の若手経営者の経営マインドを分析し、どのようなサポートサービスを提供することでステークホルダーがWin-Winの関係で迅速にかつ効率的に成果を上げることができるかを考察し、その推進策としてポータルサイトをオープンする必要性に気付いたからだ。
本稿では、同ポータルサイトを構築することになった経緯と、目的について報告する。
2.産金学官の連携の問題と課題
2.1 従来の「産金学官」連携活動における課題
コラボ産学官は、従来の産学連携関係機関に信用金庫が参加して、中小企業を主体とした地域活性化を目指した当時としては革新的な産学連携組織体として活動をスタートした。(図1参照)
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図1 コラボ産学官設立の経緯
2.2 中小企業の経営資源の確保
中小企業の場合、経常的に経営資源が不足しており、特に、新規事業分野への進出においてポイントとなる「ひと」「かね」「知財・技術・ノウハウ」「情報」について外部から導入する必要があった。そのうち「知財・技術・ノウハウ」導入の有効な手段の一つとして、産学連携が進められた。(図2参照)
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図2 中小企業の経営資源と産金学官士との連携
当初は、信用金庫が大学と協定を結び、大学が持つ知財・シーズを活用してもらうためのセミナー・技術相談会が頻繁に開催された。しかし、売上拡大、新規事業分野への進出等について、具体的に経営課題を特定していない中小企業とのマッチングは、必ずしもうまくいかなかった。
本来、ニーズからスタートすべき課題の特定をシーズからスタートしたところに、その原因があるのは明らかであった。(図3参照)
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図3 シーズ・オリエンティド産金学官士連携活動
その後、中小企業側のニーズに基づいた「ニーズ・オリエンティド」の流れになり、(図4参照)、さらに、現在では、作り手側のニーズではなく、エンド・ユーザーまで遡りニーズを特定してから開発等を進める流れが定着してきている。(図5参照)
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図4 ニーズ・オリエンティド産金学官士連携活動
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図5 ユーザー視点ニーズ・オリエンティドエンド
2.3 中小企業における課題特定の問題点
中小企業において、製品開発等の課題が明確に特定できていたとしても、全体の製造工程を俯瞰して特定しているのかも重要なポイントである。「部分最適」の集合体は「全体最適」ことである。いわゆる「合成の誤謬」が発生していた。
製造工程の川上から川下の流れにおいて、例えば、C社が、自社の前工程と後工程において課題を特定し、単独で産学連携等により課題解決を行ったとしても、その結果が、全行程を通した課題解決につながらないということが発生した。(図6参照)
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図6 従来の中小企業の産学連携スキーム
従って、中小企業が連携するものづくりにおいては、全行程をあたかも一つの企業体としてとらえるバリューチャーンの形成が必要で、その全行程を通して課題を特定し、参加企業全社の協力のもと産学連携等を推進して、「全体最適」を目指した課題解決を推進する必要がある。(図7参照)
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図7 全行程の課題解決した新規プロジェクト体制
3.下町サミットの取り組み
3.1 ものづくり中小企業の集積エリアでの展開
日本におけるものづくり中小企業の集積エリアは、東京・大阪・中京地区の3地域と特定されるにもかかわらず、全国を対象に一律に産学連携活動を展開することにより中小企業との産学連携は難しいという認識が広がっている。
東京都内23区の、ものづくり中小企業・小規模事業者の集積エリアは、大田区だけではなく、むしろ城北・城東地区である。(図8参照)
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図8 23区内ものづくり中小企業を取り巻く状況
その城北・城東地区の二代目・三代目の若手経営者が草の根的に異業種交流の活動を実施している。それが「下町サミット」である。創業者と違い、高学歴で留学経験・大企業でのビジネス経験がある経営者がベンチャー・大企業との異業態交流にも積極的に参加している。
スタートの切っ掛けは、荒川区のあすめし会(明日の飯の種をつくる会)・豊島区のイケベン(池袋経営勉強会)・江戸川で創る会のメンバーが中心となり、2014年5月にスタートし、その後草の根的に活動の範囲を広げ、城北・城東地区での開催を経た後に、2016年10月には第9回を大田区で開催、2017年2月には第10回を世田谷区で開催予定である。
2020年までに、23区全域での開催を目指して、前述の3区のコアメンバーを中心に、他の区への働きかけを推進している。(図9参照)
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図9 下町サミットとは(2017年時点)
3.2オープンイノベーションの推進
大企業と中小企業との関係も変わってきている。
高度成長期には、大手企業主導による系列・下請け体制による生産構造となっていた。しかし、バブル崩壊後、大企業が低賃金を求め海外生産にシフトしていく中で、系列・下請けが崩壊してしまった。ところが近年、消費地近郊で生産するメリットがない企業は、国内へ生産拠点回帰の傾向がある。そういった企業は、一旦壊した系列体制を再構築するために、また、新事業の展開のために、ベンチャー・中小企業との連携をオープンイノベーションという名のもとに進めている。
特に、いままでに関係がなかった中小企業の優れた技術・ノウハウの探索に力を入れている。(図10参照)
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図10 中小企業・ベンチャー・大企業の関係
3.3 中小企業経営者の経営マインドを見極める
ものづくり中小企業を一つの集合体ととらえてみると、そこには組織の論理が存在しているように思う。下町サミットに参加しているメンバーは、23区内のものづくり中小企業者総数の2割にも及ばないが、その中核となる存在の企業経営者の方々が、収益向上を目指して活動している。(図11参照)
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図11 組織における「2:6:2の法則」からの考察
すでに、公的機関・金融機関とも連携して実績を上げられ、マスコミでも取り上げられている企業がたくさん出てきている。
4.コミュニケーション「場」Ⓡの挑戦
4.1 課題解決に向けたネットワークの構築
産金学官士連携の関係は図12の通りである。
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図12 ステークホルダーの相関図
「金」・「学」・「官」ともにしっかりした組織であり、決められた業務を確実に処理している。しかし、しっかりした組織が陥りやすい、もう一歩先のサポートができないことによる連携のスキマが生まれてしまう可能性をはらんでいる。
その連携のスキマを生じさせないために、コミュニケーション「場」Ⓡ(c-ba)を立ち上げた。
スキマを発生させないために、必要なときに必要な機関によるサポートを提供する、そのようなネットワークの構築が必要とされている。ただ、そのようなスキマが発生しなくとも、中小企業の慢性的な経営資源の不足を補完するため、士業の方々、もしくは、プラチナ世代の支援をタイムリーに提供することが、コミュニケーション「場」Ⓡ(c-ba)の使命である。
4.2 新規事業創生に向けた流れ
経営資源が経常的に不足している中小企業にとって新規事業進出における課題は資金調達と販路開拓である。 (図13参照)
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図13 産金学官士活動・連携スキーム
新規事業分野への進出に向けて、ニーズを明確に特定し、産学連携による外部シーズ利用と助成金を活用した新規事業展開の流れを標準化し、新規事業への取組み意欲が高い中小企業の経営者にしっかり理解・利用してもらい、次のステージを目指した事業展開できる環境づくりを推進する必要がある。(図14、図15参照)
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図14 助成金を活用した事業化へのステップ
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図15 産金学官士連携をスムーズに進めるには?
東京23区内の中小企業が主体となってその動きを経常化することにより、その活動が全国に拡大して行く流れをつくり上げていく。
4.3ライフステージ別シームレスサポートの推進
さらに、中小企業の新規事業への進出、いわゆる「第二創業」において、一番の課題である資金調達について、ライフステージ別にシームレスにサポートできる仕組みづくりが次なる領域の課題となる。(図16参照)
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図16 資金調達のシームレスサポート
中小企業の第二創業に向けてのサポートを主体に説明してきたが、この流れは、大学発ベンチャー・ベンチャーにも適用できるビジネスモデルである。
シード・アーリーの段階では、「金」の主体は行政・政府系金融金だけでなく、地域の信用金庫がその役割を担う段階に来ている。信金による草創期の企業の事業拡大へのサポートをどんどん進めてもらうための情報発信をコミュニケーション「場」Ⓡ(c-ba)において推進していく。 そして、次の受け手である、ベンチャーキャピタル、証券会社等への情報発信も実施する。 全ての企業がIPOを目指すわけではないが、上場企業相当レベルのガバナンス体制を確立して、企業運営における継続性を維持することの重要性についても情報発信を行う。
5.おわりに
産金学官士連携活動を推進する組織体として、民間企業は適合しないと言われ続けてきた。
しかし、産金学官士連携活動が収益向上を前提に推進するものという、ビジネスとして当たり前のことを、ステークホルダーが共通意識として持つことができれば、民間企業においても運営が可能だと確信している。また、その意識を共有できなければ新規事業は生まれないとの信念を持ってコミュニケーション「場」Ⓡを運営していく。
コミュニケーション「場」Ⓡにおいては、産金学官連携推進に必要な基本的な情報を無料で提供するサイトを用意する。
その情報をベースに、起業・第二創業を推進する際に必要となる、ホームページ、グループウェアソフト、セミナー事業、Web展示会等のコンテンツを有料で提供し、それを原資として、コミュニケーション「場」Ⓡを運営していく。(図17参照)
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図17 コミュニケーション「場」Ⓡのコンテンツ
※開発工学 Vol.36 No2.2616 にて発表
下町サミット ⇒ 24区
※2023年6月の開催状況
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